「リスクアセスメント」—CEマーキングでこの言葉は、より大きな概念です。
通常、リスクアセスメントとは、リスクを『危害が発生する確率とその危害の程度の組合せ』として評価をするもので、多くの企業で”リスクアセスメントシート”などを活用して実践されていることでしょう。
これは、ISO/IEC規格のベースとなっているISO/IEC Guide 51:2014 (JIS Z 8051:2015 IDT(完全一致))の定義であり、そのプロセスチャートは、例えばCENELEC Guide32や、EN/ISO12100などで示されています。
以上は製品安全のリスクアセスメントについての中心的な理解の仕方・考え方であり、何も間違ってはいないのですが、一方、CEマーキングの各指令・規則で技術文書に含めるよう求められているリスクアセスメントは、上述のリスクアセスメントとは少し異なります。
CEマーキングで求められるリスクアセスメントとは?
2014年春、様々な指令が改正され、技術文書にリスクアセスメントの内容を含める旨が明記されました。
- 関連する必須要求事項への製品の適合を評価することを可能とし、また、リスクの適切な分析及び評価を含める。
- その評価に関連する限り、製品の設計、製造、使用を網羅し、適用される必須要求事項を特定しなければならない。
それまで技術文書は、各指令の付属書等で、指令の要求事項に製品が適合しているかどうかを評価できるように作成することが求められ、例えば低電圧指令では、以下の事項を含めなければならない、とされていました。
- 電気機器の概要説明
- 部品、サブアセンブリ、回路等の概念設計図及び製造図及び回路図
- 上記の図面及び回路図並びに電気機器の動作を理解するために必要な説明及び解説
- 全部又は一部適用された規格の一覧及び規格が適用されていない場合に、この指令の安全面を満たすために採用された解決策の説明
- 実施された設計計算及び検査等の結果
- 試験報告書
改正によって、「全部又は一部適用された規格の~」は「用いた整合規格のリスト」に置き換わり、また、リスクの適切な分析及び評価を含め、適用される必須要求事項を特定しなければならない旨が追加されました。
なぜこのように改正されたのか?—私個人の受け止め
改正以前は、技術文書の意図・目的を十分に理解せず、単に図面や資料、テストレポートなどを綴じただけの技術文書が多かったのではないでしょうか。メーカーは技術文書としての要点を外した文書を作成 し、当局側も一生懸命調べても適合性を評価できない―こうしたLOSE-LOSEの関係を是正する必要があったのではないかと思います。
その文脈から、指令・規則が求めるリスクアセスメントとは、その必須要件に照らし合わせて、製品がどんなもので、関連するリスクはどういうもので、どのようにリスクを低減したのかを説明するものです。
機械指令の必須要求事項、その一般原則では、その第1項に『機械に適用される必須健康安全要件を決定するために、リスクアセスメントが実行されることを確実にしなければならない。次に、リスクアセスメントの結果を考慮に入れて、関連するすべてのリスクを防止または最小化するように、機械は設計および製造されなければならない。』と明記されています。
このことは、背景にある考え方を知ればより一層理解が進みます。ブルーガイドには次のような説明図があります。
この図を頭に入れておくだけで、理解の深さが大きく変わります。当社ウェブページの随所に登場しており、お客様にも“絶対に頭に入れてください”とお伝えしている図です。
「リスク」とは、概念の広い言葉です。狭義とは別の意味もある、と柔軟にとらえる必要があります。
メーカーはどうしたらよいのでしょうか
このコラム前半の内容をよく理解して実務に反映することが求められます。
メーカーは製品に関連するリスクを包括的にアセスメントしなければなりません。許容できないリスクを放置したまま市場に出すなどあってはならないことです。
ここで少し立ち止まって考えてみてください。このことは、別にCEマーキングではなくても、日常業務で実践していることではないでしょうか?
実はCEマーキングを取り入れた方が楽
CEマーキングは、指令・規則の必須要求事項を製品が満たすことを求めています。この必須要求事項は、市場での製品流通にあたっての一般的な、最低限の要件を定めているものですが、製品によっては関係ない要件も含まれます。製品に関係あるかないかはメーカーが決めます。(上述のチャート図、機械指令の例など参考)
つまりCEマーキングは、製品に関連するリスクに応じて、指令・規則を選択し、必須要求事項を選択し、整合規格を参考にできる、のです。
包括的に、網羅的にリスクアセスメントするにあたって、まず大枠のアセスメントを実施して進めることができる、ということです。実践的、かつ、他者からもわかりやすい方法をCEマーキングは示唆しています。
リスクアセスメントのコツ―
「この事項については、これ以上詳細に踏み込まない」と、大枠の段階で該否を決め、必要な部分だけ細部を詰めることです。この判断に正当性を持たせるための設計・仕様決定も欠かせません。実務上、とても重要です。
前提を共有しない他者に適合性を説明するときも、まず大枠から説明する方が受け入れられやすいと思います。
そしてこのリスクアセスメントは、製品のCEマーキング適合に至る道筋を照らすものとなります。(当社では、”全体概算”の前にこのようなアセスメントをまず実施することを強く推奨しています。)
そして国際的に強くなる
昨今ではサプライチェーンを分散して供給のリスクヘッジをすることがクローズアップされていますが、販売先ーお客様をたくさん確保することはそれにも増して重要です。
CEマーキングはEUの法規制ではありますが、その内容は市場に流通する製品の基本です。EU向けではないのに、CEマーキングを求められたことはないでしょうか?その国、地域の法規制に関係なくても購入仕様として求められているのです。
CEマーキングを理解しているメーカーの方が話が早い。裏を返せば、CEマーキングでなければ後回し。他社で断られて(あるいはバックアップとして)ウチに話が来たな、と感じられたことはありませんか?
あるいは、比較的高額なのに受け入れられたことはありませんか?(円安だとしても)
特に欧米では、不適合や事故による予想コストに対してBCR(Benefit-Cost Ratio)を考慮し、予防的投資コストをどこまで予算化できるかを判断することが一般的です。(※Grok調べ)
CEマーキングは通常ならこのBCRを上回るので、単に元価格に対してどれだけ売値がアップしたか、ではなく、BCRのレンジを下回ったら買い控えることになります。ありていにいえば、安全信頼性に見合った製品価格かどうかを見るためのモデル計算です。
メーカーは、メーカー側としてのBCRを大きくし(つまりできるだけ少ないCEマーキング対応コストで同等以上の効果を得ること)、利益を大きくとって価格競争に強くなることです。
これは少量多品種でもCEマーキング対応する場合の理屈になります。もちろんレッドオーシャンでは、BCR競争になります。
リスクアセスメントまとめ
冒頭で触れたISO/IEC Guide 51の定義や、そのプロセスチャート(CENELEC Guide32、EN/ISO12100など)に基づくリスクアセスメントはもちろんちゃんとした正しいリスクアセスメントです。
しかしCEマーキングでは、リスクアセスメントの概念を少し拡張し、指令・規則の該否判断や必須要求事項の該否判断のツールとして活用できます。これにより、技術文書の意図・目的をしっかりとカバーできるものとなります。
また、製品の適合宣言までに何が必要で(または不要で)、どう進めていくかの基礎であり、前提条件や仕様にフィードバックするものでもあります。したがってCEマーキング適合宣言までいけるか、費用と期間がどれくらいになるか見定めるためにも、まずリスクアセスメントを適切に実施する必要があります。