本記事は、EMC指令における「リスクアセスメント」の基本と実践を解説しています。また、EMC指令該否の判断を疑似体験し、理解を深めて頂くために、EMC指令ガイドを反映した自己診断ウイザードを記事中に用意しました。是非お試しください。
EMC指令におけるリスクアセスメントの必要性
EMC指令では、リスク分析した記録を技術文書に含めることが要求されています。(他の指令・規則でも同様です。)
概念を理解する
CEマーキングにおいて、「リスク」アセスメントは広範な意味を持ちます。【リスク=危害の重大度 X 発生率】という理解は間違っていませんが、これは狭義の意味です。「リスク」という言葉は、CEマーキングの文脈上、もっと広範な意味で用いられています。
EMC指令における「リスク」は、その代表例です。
4.2 Risk analyses and risk assessment
The conformity assessment procedures for apparatus require the manufacturer to establish technical documentation. This documentation shall make it possible to assess the conformity of the apparatus to the relevant requirements, and shall include an adequate analysis and assessment of the risk(s). In EMCD the concept of risk refers to risks in relation to the electromagnetic compatibility protection aims specified in Annex I “Essential Requirements” and not to safety. On basis of the knowledge of the relevant EMC phenomena for the apparatus and its intended operating environments the EMC assessment according to chapter 4.3 can be performed. This EMC assessment is considered to be an adequate analysis and assessment of the risk(s). See also Blue Guide section 4.1.1 “Definition of essential requirements”.4.2リスク分析とリスク評価
EMC指令ガイド(March 2018)4.2 リスク分析とリスク評価
装置の適合性評価手順では、製造者が技術文書を確立する必要があります。 この文書は、関連する要件への装置の適合性を評価することを可能にし、リスクの適切な分析と評価を含むものとします。 EMCDでは、リスクの概念は、安全性ではなく、Annex I 「必須要求事項」で指定された電磁適合性保護の目的に関するリスクを指します。 装置に関連するEMC現象とその意図される動作環境に関する知識に基づいて、4.3項【EMC指令ガイド(March 2018)】によるEMC評価を実行できます。 このEMC評価は、リスクの適切な分析および評価と見なされます。 ブルーガイドのセクション4.1.1「必須要求事項の定義」も参照してください。
EMC指令への該当性を検討するプロセスそのものが、広義の「リスクアセスメント」の一環といえます。
参考:
まずは、EMC指令に該当するかどうかのアセスメント
まずは「広義のリスクアセスメント」として、製品の特性がEMC指令の「必須要求事項」にどう関係するか、指令の適用対象かどうかを評価することが重要です。
やってみよう!EMC指令該否ウイザード
このウイザードはEMC指令とそのガイドラインの理解を助けるための参考ツールです。お手元のEMC指令ガイド、またEMC指令と照らし合わせてご確認ください。
最終的な適用判断は、メーカー自身の単独責任による判断が必要になります。他人に判断を求めることではありません。
To re-iterate – the EMC assessment is the sole responsibility of the manufacturer; it is never the responsibility of a third party such as a Notified Body or an EMC test laboratory..
繰り返しますが、EMC評価は製造元の単独の責任です。 Notified BodyやEMCテストラボなどの第三者の責任ではありません。
EMC指令ガイド(March 2018)4.3 EMC評価
どれほどの専門家であっても、ジャンルが異なれば判断を誤ることがあります。EMC指令アセスメントに詳しいコンサルタントの助言を得ることは、適切な判断を支える大きな助けとなります。(お気軽にご相談ください。)
EMCリスクアセスメントのメリット
EMCリスクアセスメントを行うことは、単にEMC指令適合に向けての必須作業というだけではなく、様々なメリットがあります。
EMCに関して、どのような設計構想を検討すべきかが明確になります。
リスクあり
➧
適切な設計上の対応をとる。
リスクなし
➧
設計上の対応をとる必要はない。
判断が難しい
(評価で確認)
➧
リスク判断のための予備評価を実施してみる。(例:イミュニティに弱いとみる部分を想定される以上の強度でテスト)
判断が難しい
(設計余地を残す)
➧
評価結果に応じて、対策デバイスを増設あるいは実装しない余地を残しておく。(例:ラインノイズフィルターの実装スペース確保、等)
いままでに、「原因不明」「再現性が乏しい」現象に悩まされたことはありませんか?EMC現象は、因果関係を確り分析できないことも多く、EMC対策を実施して様子見することが現実的な場合があります。
EMCリスクアセスメントは、単なる「規制対応」のための作業ではありません。設計初期の段階で課題を“見える化”することにより、試験段階での手戻りや、過剰な安全マージンの回避にもつながります。
EMCリスクアセスメントで適合の可能性と課題を整理しておけば、整合規格の選定も的確になり、適合評価を効率的かつ見通しを持って進めることができます。
EMCリスクアセスメントの実際
2.Electromagnetic compatibility assessment
The manufacturer shall perform an electromagnetic compatibility assessment of the apparatus, on the basis of the relevant phenomena, with a view to meeting the essential requirements set out in point 1 of Annex I.
The electromagnetic compatibility assessment shall take into account all normal intended operating conditions. Where the apparatus is capable of taking different configurations, the electromagnetic compatibility assessment shall confirm whether the apparatus meets the essential requirements set out in point 1 of Annex I in all the possible configurations identified by the manufacturer as representative of its intended use.2.EMCアセスメント
EMC指令 2014/30/EU Annex II
製造者は、関連するEMC現象に基づき、付属書Ⅰの1項に記載されている必須要求事項を満たすことを目的として、製品のEMCアセスメントを実施するものとする。 EMCアセスメントでは、すべての通常の意図された動作条件を考慮しなければなりません。 装置がさまざまな構成をとることができる場合、EMCアセスメントは、製造者がその用途を代表するものとして特定したすべての可能な構成において、装置が付属書Iのポイント1に定められた必須要求事項を満たしているかどうかを確認するものとします。
EMC指令のリスクアセスメントは、「EMC現象」に基づく評価です。
EMC現象とは何か?
EMC指令の文脈においては、「リスク=EMC現象」と捉えて差し支えありません。
身近でわかりやすいEMC現象といえば、「雷」です。雷サージとも呼ばれ、瞬間的に過大な電圧が機器に到達することです。サージ保護付きOAタップなども販売されています。静電気放電も、EMC現象として捉えられており、機器の故障や誤動作を招くリスクのひとつです。これらのような「過渡現象」もEMC現象に含まれます。
もちろん定常的な電磁波の放射や伝搬による現象もEMC現象です。
EMC現象は、概ね9通りに分類されます。
- 放出 (Emission) か耐性 (Immunity) かの分類
- 放射 (Radiated) か伝導 (Conducted) かの分類
- 周波数が低いか高いかの分類
以上、2×2×2 = 計8通りに加えて、「静電気放電」の合計9通り
これらの分類とは別枠に分類されるEMC現象(高高度電磁パルス)、また高電圧・中電圧配電網で考慮されるEMC現象は、よほど特殊なケースでない限り、一般的な製品では考慮に含める必要はありません。
「製品」について考慮すべきEMC現象は、製品規格あるいは製品群規格で要求される基本規格により知ることができます。
一般的な環境において考慮に含める必要があるとされるEMC現象は、ジェネリック規格で要求される基本規格(EMC現象についての測定・試験方法が規定されています。)により知ることができます。
ここでいう「ジェネリック規格」「製品規格/製品群規格」は、整合規格として、欧州官報でその規格番号のリストが公表されている規格です。
EMC指令の整合規格は、「規制値/試験レベル」、「測定/試験方法・手順」を定めていますが、「測定/試験方法・手順」については、基本規格を呼び出しているものもあります。ジェネリック規格 EN 61000-6 シリーズはその代表例です。
規格 IEC 61000-4シリーズ、またCISPR16などは、基本規格の代表例です。様々なEMC現象について、「測定/試験方法・手順」等が記述されています。
これらの規格は、法規ではないという理解に基づいて、EMC現象を考慮するためのヒントとして活用することができます。
EMC指令の整合規格
整合規格では法規ではなく、指令への適合を推定できる「技術仕様・試験仕様」であることを理解することが重要です。(EMC指令に限りません。)
整合規格の本質は、「仕様」です。『ユーザーに約束する技術的内容の一例』であり、自身で選び取って参考にするものです。一つの整合規格全体あるいは部分を選ぶこともでき、また複数の整合規格を選ぶ、または選ばないこともできます。
整合規格は、必須要求事項から逸脱する内容がないことが予め確認されているので、安心して選ぶことができ、必須要求事項を満たしていることをスマートに提示できるよいツールです。メーカーを助けます。
進め方のひとつとして、製品と相関の高い「製品規格」「製品群規格」を探すことが実務の第一歩です。選んだ規格を軸に、EMC現象のアセスメントを展開することができます。
規格に記述されている内容に比べて、製品がその範疇に収まるか、「製品」「使用環境」「仕様」「特殊な条件の有無」など精査する必要があります。
『整合規格を使用している場合でも、必須要求事項を満たすために製造者がリスク評価を実施する必要があり、整合規格が製品のすべてのリスクをカバーしているかどうかをチェックする必要があります。』と、CEマーキングのブルーガイド(脚注152)に記述されています。
逆に、製品に関係しない「リスク=EMC現象」について、規格で試験方法が提示されていたとしても、必ずしも試験を実施する必要はありません。
リスクが実質的に存在しない、あるいは十分に低いことを設計仕様や使用条件の設定によって説明できるのであれば、試験による実証は不要と判断できます。
つまり、「試験をして確認する」前に、そもそもリスクが成立しない設計や仕様にしておくことが、本質的なリスクアセスメントの目的です。
これは、「3ステップメソッド」の考え方に適います。また、リスアセスメントの最初のステップ:製品の特性・使用条件・EMC現象の関係を定義する工程がいかに重要かを示しています。
規格要件を満たすためのEMC対策設計はもちろん重要ですが、そもそも試験をする必要のない条件を満たしたうえで、必要な試験のみ適切に行うことが勝ります。よくわからないうちは、やみくもにすべての試験をすることになります。
規格は、製品の「仕様」をまとめるための材料として参考にすることもできます。
(例:「当社製品は、住宅環境レベルのエミッション性能(EN61000-6-3)、工業環境レベルのイミュニティ性能(EN 61000-6-2)を満たしています。」)※この逆はEMC指令の必須要求事項を満たしません。
なぜこの規格を選んで用いたのか、これがどの様に「EMC指令の必須要求事項を満たす」として製品に関連するEMC現象を網羅しているかを、メーカー自身が説明できなければなりません。
整合規格は画一的な合否判定基準ではありません。”技術仕様”です。
参考資料
EMC指令(2014/30/EU)のリスクアセスメント ー 基礎解説ノート

EMC指令で必須のリスクアセスメント、EMC現象、ポートの概念についてわかりやすく整理した解説ノートです。 Annexでは、リスクアセスメント、テストプラン、技術文書の要素を横断的に俯瞰できる一覧表を収録。 EMC指令の理解を深め、社内説明や技術文書作成にも役立つ、基礎資料としてぜひご活用ください。
2025-06-14
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適合宣言の範疇、製品仕様、Intended use analysis、リスクアセスメントの最初のステップです。
指令の必須要求事項と製品に内在するリスクを照査します。
評価・試験を効率よく進めるためには、適切な計画の下で予め必要な物を揃え、必要な事項を決定します。
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