TOPIX ー 技術文書で何を示すべきか
- 電線・ケーブルに関連する様々なリスクを考慮する。
- 電線・ケーブルの仕様、使用上の警告を理解する。
- リスクアセスメントまたは規格、あるいはその両方を上手に活用する。
技術文書で何を示すべきか
技術文書に含める内容は、その製品のリスクや設計次第であり、書き方についても、書式についても、特に指定はありません。
電気図面・回路図面を含める要求はありますが、指令への適合性に関連する内容がなければ意味がなく、無関係な図面、情報を技術文書に含めるべきではありません。
技術文書に関する要求事項、意図目的、製品のリスクと指令への適合性、設計の内容などよく理解して作成しなければ、CEマーキングにおける技術文書になりません。
何をどう提示するのか
具体的には何をどのように作成提示すればよいのか、端的な例として、以下にまとめました。ここに記載されている事項以外にも、考えられるリスクについて考慮し、許容できないリスクがないことを提示する必要があります。
機器の適合性
(電線・ケーブルに関連する事項に限定)
事象
提示例
1
感電リスクに関する適合性
1.1
感電リスクあり/なしの仕分け
1.1.1
危険電圧に接続されない、危険電圧が内在しない機器または部分、危険電圧から二重絶縁、強化絶縁で保護されたものしか接続しない・接触しないことが前提の機器または部分か?
1.1.2
任意の2点間において、安全低電圧を超えることはないか?負電圧出力電源、逆相に注意する。
1.1.3
電線・ケーブルの断線により、危険な電圧になる箇所があるか?分圧回路の一部を構成している、トランスの巻数比の選択において短絡している、等。
A)リスクアセスメント
B)“安全低電圧”、“危険な活電部”を定義している規格(その部分)への適合とそのレポート
1.2
電線・ケーブルとその他構造物との絶縁が、過渡過電圧も考慮にいれて適切か。
A)リスクアセスメント — どの過電圧カテゴリーに接続するか。
1.2.1
危険電圧に接続する、あるいは危険電圧に近接する電線・ケーブルが、過渡過電圧を考慮にいれて十分な耐電圧を有していること。
1.2.2
危険電圧に接続されている電線に、人が触れないようにする。(例えば、キャプタイヤケーブルの、外部シースを剥いた、内部の赤、白、黒または青の被覆に触れることが、工具や鍵を用いることなしに可能であってはならない。その部分、その被覆だけでは、人に対する絶縁として十分なものではない。人に対しては二重絶縁か強化絶縁が要求される。)
1.2.3
高電圧線、電力線と、低電圧線、信号線を混在させないこと。工具や鍵なしに人への接触が想定される電線・ケーブルは、危険電圧部分に対して二重絶縁か強化絶縁でなければならない。
A)該当する電線・ケーブルを重要部品リストに記載、試験電圧仕様(例:2kV、1分間等)を記載する。
B)その証拠としての認証書のコピー、仕様書のコピー等。
C)過渡電圧も含めた絶縁に対する要求を規定している規格への適合とそのレポート。
1.3
保護アース線に関して
A)リスクアセスメント ― 感電保護方策として、保護アースを用いていない機器か。
1.3.1
電力供給電線に対応する線径であること。
1.3.2
ケーブルを引っ張ったときに、活線より先に切れないように少し長くしておくこと。
1.3.3
トモ締め、トモ圧着しないこと。
1.3.4
保護アースと認識できる表示をすること。(緑/黄色のスパイラル、“PE”表示、保護アースマーク)
1.3.5
シールドケーブルのシールド線は、保護アースとして認められない。
A)該当する電線・ケーブルを重要部品リストに記載、線径を記載する。
B)その証拠としての認証書のコピー、仕様書のコピー等。
C)保護アース線に対する要求を規定している規格への適合とそのレポート。
1.4
上述において適切に選択された電線・ケーブルが、適切に使用されているか
(4項参照)
2
発火・やけどリスクに関する適合性
2.1
発火・やけどリスクあり/なしの仕分け
2.1.1
危険な電力源に接続されない、発火源、高温になる部品を内在しない機器または部分か?
A)リスクアセスメント
B)発火・延焼に関する技術仕様、やけどに関する技術仕様を定義している規格への適合とそのレポート
2.2
電線・ケーブルの仕様と実際の回路の電流が適切であり、過負荷・短絡が発生しても、火災には至らないこと。
2.2.1
電線・ケーブルの環境温度や敷設状態、束ねた場合、ドラムに巻き付けている場合のディレーティング(低減率)を考慮した電線の許容電流に対して、上流の遮断器の動作電流がその値をこえないこと。また、短絡電流が、遮断器の遮断電流をこえないこと。
A)該当する電線・ケーブルを重要部品リストに記載、線径や許容電流、使用環境温度を記載する。遮断器とのその定格も併せて(別欄に)記載する。
B)その証拠としての認証書のコピー、仕様書のコピー等、電気図面、電線・ケーブル接続図等。
C)許容電流に対する要求を規定している規格への適合とそのレポート。
2.3
ケーブルの難燃性
ケーブルは延焼しないか?難燃グレードは適切か?
A)リスクアセスメント ー 危険な電力源に接続されない、発火源、高温になる部品を内在しない機器または部分
B)発火・延焼に関する技術仕様を定義している規格への適合とそのレポート
2.3.1
認定されたIECケーブルを採用しているか?IECケーブルは、ケーブル規格 IEC 60227-1、IEC60245-1 などが、難燃性について、ケーブルの垂直燃焼試験(IEC 60332-1-1、IEC 60332-1-2)を要求している。
2.3.2
難燃グレードが認定された電線・ケーブルを採用しているか?
IEC 60332-1-2 は、ULの VW-1、CSAの FT-1(いずれもUL1581)と同等の試験方法を定めている。(全く同じではない。)
A)該当する電線・ケーブルを重要部品リストに記載、IECコードまたは、難燃グレードを記載する。
B)その証拠としての認証書のコピー、仕様書のコピー等。
C)電線・ケーブルの難燃グレードに対する要求を規定している規格への適合とそのレポート。
2.4
上述において適切に選択された電線・ケーブルが、適切に使用されているか
(4項参照)
3
主電源コードに関して
機器内の断路器より手前にあり、筐体外に配置される。機械的強度、耐候性、耐薬品性、耐熱性など、様々な観点から十分な安全性がなければならない。
A)リスクアセスメント — 主電源コードを必要とするか、必要としないか、付属するか、指定するか。
B)リスクアセスメント — 機器の移動性―固定機器、ポータブル、手持ち機器など。
3.1
IEC規格によって分類された、または広く国際的に信頼された規格によって分類された、適切なタイプの主電源コードを選ぶ。製品の規格が指示、要求している場合がある。
A)主電源コードを重要部品リストに記載、IECコード番号を記載する。
B)その証拠としての認証書のコピー、仕様書のコピー等
C)認証書がない場合、IEC 60227 シリーズもしくは同等の規格に適合している旨の主電源コード単体の試験レポート。
3.2
メーカーが指定するもの、付属したもの以外の電源コードの使用に対して、警告を取扱説明書に記載する。
A)リスクアセスメント — 市販のACコードセットを代替に用いたときのリスク
B)メーカーが指定する電源コード以外に使用に対しての警告を記載するよう要求する規格への適合とそのレポート。
3.3
上述において適切に選択された電線・ケーブルが、適切に使用されているか
(4項参照)
4
絶縁の有効性・信頼性
適切な電線・ケーブルを選択していても、その使用条件を逸脱せず、適切に配線、施工されていなければ、絶縁を損なう、あるいは、断線して活電部が露呈・レアショートするなどして危険になる。
多くの場合、適切な配線、施工等について、製品の規格に要求がある。
4.1
電圧
4.1.1
電線・ケーブルの仕様と実際の回路の電圧が適切であること。
A)該当する電線・ケーブルを重要部品リストに記載、電圧定格を記載する。電気図面など回路電圧が分かる資料と併せて提示する。
B)その証拠としての認証書のコピー、仕様書のコピー等。
C)電線・ケーブルの電圧定格に対する要求を規定している規格への適合とそのレポート。
4.2
温度
4.2.1
高温になる部品との接触、高温部品を冷却し温度が上昇した空気にさらされないように配置、固定する。冷却システム(空冷ファン、水冷チラーなど)の故障を想定するとき、電線が発煙・発火するような配置をしない。
A)配線固定の評価、温度測定、アブノーマル試験を規定している規格への適合とそのレポート。
4.2.2
高温になる部品(例:大電力抵抗など)への接続は、部品からの熱伝導によって、電線・ケーブルの温度定格を超えないように配置する。
A)温度測定を規定している規格への適合とそのレポート。
4.2.3
束ねたり、ダクト内に密集させるなどして、電線自身の放熱が阻害される場合、ディレーティング(低減率)を考慮する。一般的にほとんどの電線・ケーブルの温度定格・電流定格は、空中一条配線の条件下での定格である。
A)ディレーティング(低減率)が記載された電線・ケーブルの取扱説明書
B)温度測定を規定している規格への適合とそのレポート。
C)線束、ダクト内占有率を規定している規格への適合とそのレポート
4.3
機械
4.3.1
電気接続部に応力がかからないよう、接続部の近傍で固定する。
4.3.2
ブラブラ配線をしない。しかし、張力がかからないようにゆとりを持たせる。
4.3.3
半田付けは、専用端子に適切に施工されたものでなければ許容されない。半田付け部分に応力、張力等が加わらないよう適切に固定されていること。
4.3.4
撚り線にハンダ処理しないこと。(脆くなり、すぐに断線する。)
A)配線固定について規定している規格への適合とそのレポート。
4.3.5
電線径と圧着端子の適切な組合せ、適切な剥きしろ、適切な圧着工具・圧着ダイ、適切な位置・向きでの圧着作業が適切であること。これらが不適切であると、電線はちぎれるか、スポ抜ける。
A)配線固定、引っ張り試験などについて規定している規格への適合とそのレポート。
4.3.6
筐体外からのケーブルの引込みは、適切なコンジット、ケーブルグランド、ケーブルプロテクター等で、引っ張りやねじれ、曲げから保護されていること。
A)配線固定、引っ張り試験。ねじり試験、曲げ試験などについて規定している規格への適合とそのレポート。
4.3.7
最小曲げ半径より小さく曲げない、曲がらないようにすること。特に電気接続点の近傍で過度に曲げられないようする。(ケーブルプロテクター等)
A)該当する電線・ケーブルを重要部品リストに記載、最小曲げ半径を記載する。実体配線図、ケーブルガイドの曲げ半径など併せて提示する。
B)その証拠としての認証書のコピー、仕様書のコピー等。
C)電線・ケーブルの電圧定格に対する要求を規定している規格への適合とそのレポート。
4.3.8
可動部に接触しないよう適切に固定する。
可動部との接触による断線、被覆の損傷、可動部や振動の影響で被覆が擦れて摩耗することのないよう適切に固定する。
A)配線固定について規定している規格への適合とそのレポート。
4.3.9
可動部品に接続する電線・ケーブルは、適切なクラス(Class 5 または Class 6 / IEC 60228)のケーブルを用い、またケーブルガイド等も用いて適切に固定する。
A)該当する電線・ケーブルを重要部品リストに記載、クラスを記載する。
B)その証拠としての認証書のコピー、仕様書のコピー等。
C)可動ケーブルの配線固定について規定している規格への適合とそのレポート。
4.3.10
電線・ケーブルを通すための穴・切り欠きに、ゴムブッシュや自在ブッシュを取り付けて被覆にキズが付かないようにする。
A)配線固定について規定している規格への適合とそのレポート。
4.3.11
細すぎる電線は、筐体外には使わない。
A)線径について規定している規格への適合とそのレポート。
4.3.12
外部配線、動力線、特に電力供給側の電線・ケーブルは、電線・ケーブルの引っ掛け、接続したままの製品の移動などで、電気接続部がちぎれないよう、電気接続部とは別に強固に固定する(ケーブルグランド等)か、電気接続部が外れても活電部が露呈しないこと。(例:ACコードのコネクター、高電圧測定のためのリード端子も同様。)
A)配線固定について規定している規格への適合とそのレポート。
B)残留電圧について規定している規格への適合とそのレポート。
4.4
化学、光化学
4.4.1
化学的な溶融、劣化等が無いように、腐食性雰囲気での使用を禁止する。水や蒸気と隔離し、電気部品と配管・バルブ等を混在させないこと。適切な耐薬品性、耐候性、紫外線・赤外線に耐える電線・ケーブルを選ぶ。風雨、動物による齧り、引掻き、動物や昆虫による糞尿、植物の絡まり、埋没等々、必要に応じて適切に対策する。
A)製品の取扱説明書や仕様書、電線・ケーブルの仕様書、リスクアセスメントなどで示す。
B)該当する電線・ケーブルを重要部品リストに記載、耐性を記載する。
C)その証拠としての認証書のコピー、仕様書のコピー等。
D)化学的耐性について規定している規格への適合とそのレポート。
4.4.2
異種金属の接触による腐食がないように構成すること。特にアルミニウムと銅は接触させない。
A)電気化学ポテンシャルについて規定している規格への適合とそのレポート。
5
EMC
EMC指令への適合性は、一般的に、EMC試験レポートで示す。(技術文書も必要)
5.1
筐体間の相互接続ケーブル、外部ケーブル
長さ3mを超える外部ケーブルは、それだけ外来ノイズを機器内に取り込みやすく、伝導イミュニティ試験、ファストトランジェントバースト試験の対象になる。また、10mを超える、屋外に配線する場合など、サージイミュニティ試験の対象になる。(規格 EN61000-6-2 等)
外部ケーブルは、適合宣言の範囲外としても、接続ポートがあれば試験対象になり、また、ケーブル長の限度は、メーカーが提示するべきである。※インターフェース回路としても、接続可能なケーブルの長さには限度がある。
5.2
配線のグループ分け
外部からノイズフィルターまでのケーブル、ノイズ源からノイズフィルターまでのケーブルは、できるだけ短くする。ノイズフィルターはノイズ源のできるだけ近傍に配置する。これらのケーブルを他のケーブルと混在させない。
5.3
アース線(ノイズ対策)
アース線はできるだけ短くし、コイル状に巻かない。
5.4
ツイストペア線
電流の往路と復路をペアにすることにより、ノイズをキャンセルする効果がある。
ツイストすることにより、外部磁界との結合を軽減する効果がある。
5.5
シールド線
ノイズを遮蔽する効果があり、通信線や信号に用いられる。
多くのモータードライバーは、EMC適合のために、シールドケーブルの使用を条件としている。
シールドとアース(大地)が電流ループを形成しているとき、このループ内の磁束に変化があると、変化に伴う電流がシールドに誘起され流れる。すなわちノイズ電流が流れる。これを避けるために、“シールドの片端接地”をしているケースがある。磁束変動に対する効果はあるが、シールドの遮断性能は期待できなくなり、他のノイズに対して結合しやすくなる状況が考えられる。
5.6
対策コアの取付
EMC対策でコアを取り付ける場合、適切なケーブル配線・施工が無効にならないようにすること。
備考:この表は、以下の規格の内容を鑑みて作成したものであるが、関連する要求事項を網羅してリストアップしたのではない。
EN 50565-1:2014
Electric cables — Guide to use for cables with a rated voltage not exceeding 450/750 V (U0/U) – Part 1: General guidance
EN 50565-2:2014
Electric cables — Guide to use for cables with a rated voltage not exceeding 450/750 V (U0/U) – Part 2: Specific guidance related to EN 50525 cable types
EN 62368-1:2014
Audio/video, information and communication technology equipment. Safety requirements
EN 61010-1:2010
Safety requirements for electrical equipment for measurement, control, and laboratory use. General requirements
EN 60204-1:2006
+A1:2009
Safety of machinery. Electrical equipment of machines. General requirements
以上について、リスクに応じて、設計製造上、考慮され実践されていればまず問題はないとしたものです。(あくまで個人的な見解であり、自己責任でご判断ください。規格書に「書いている/書いていない」ではなく、リスクがあるかないかでご判断ください。)
試験所に製品の評価・試験及びレポートを依頼した場合は、電線・ケーブルの選定と使用状態が適切かを確認するために、回路図、部品リスト、部品の認証書のコピー等、規格への適合性を確認できる関係資料の提出を試験所から求められますので、正確な資料を提出してください。
悪い例:
- 認証書のコピーを提出したが、RoHS指令のことしか記載がなく、必要な情報がない。
- 回路図が複数ページに分かれているが、線の行き先のページ数、番地などの記載がなく、接続先を追えない。
- 全体回路図と、部分回路図の関係に不一致があり、接続先を追えない。
2018年09月17日
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