TOPIX ー 故障ループインピーダンス
感電防止のひとつの手法
- 他にも感電防止の手法がある中での、ひとつの手法としての電源自動遮断
- 目的は感電防護であり、電源自動遮断のみが唯一の方法ではない。
- 自動遮断の目的達成とは?ー規定された時間、超えてはならないとする電圧
- 電源電圧と故障ループインピーダンスから導出される故障電流によって可触部が危険電圧に達しないように自動遮断器が動作しなければならない。
- 絶縁故障時の電流経路をたどるー対地電圧と故障電流と故障ループインピーダンス
- 過電流保護器の機器本来の目的は、負荷短絡や過負荷発生時の回路遮断であるが、感電防護のための自動遮断器として用いることについての要件を規格 IEC/EN 60204-1は説明している。
- 故障ループインピーダンス
- 地絡故障時に電源から流れ、電源に還る故障電流経路のインピーダンス。
- 客先側からの給電及び保護アースのインピーダンスと、製品内の故障電流経路の合計インピーダンス。
- 規格 IEC/EN 60204-1で説明される感電防護の手段のひとつとしての自動電源遮断が有効かどうかに関連する電気回路のインピーダンス。
故障ループインピーダンス解説
本稿は、規格 IEC/EN 60204-1の文脈で故障ループインピーダンスを説明していますが、私見を含んでいます。 あくまで参考情報として扱う必要があります。利用者あるいは第3者に損害やトラブルが発生しても、当社は損害賠償その他一切の責任を負いません。 本稿が参照している法律、規則、指令等の原文、最新情報を必ず参照し、個社・個人の責任においてご判断ください。本稿は、個別の事案に対する理解の一助となることを考慮して作成されたものです。決定的な解釈・判断は、欧州連合の裁判所のみが可能です。
本稿は、低電圧に関してのみ扱っており、中高圧(送電線や変電所等)は扱っていません。
本稿は、分岐回路での保護について、その際の主幹保護器との協調、トランスが介在する場合などに言及していません。
ITシステムについては、採用されているケースが少ないため、本稿では割愛しています。
メーカーのための
故障ループインピーダンスとは?
感電防護が目的
この記事おいて、故障ループインピーダンス(Fault Loop Impedance)は、規格 IEC/EN 60204-1の感電防護方策のひとつとして自動電源遮断が説明される、そのなかでの概念です。
機械の電気安全
IEC/EN 60204-1
感電防護 6項
故障防護 6.3項
電源自動遮断 6.3.3項
電源自動遮断による故障保護
Annex A
故障ループインピーダンス
A.2.2.3
感電リスクがそもそも存在しないならば不要です。
電源遮断については、感電防護とは別に、負荷短絡や過負荷発生時に電源と負荷を切り離すことによって、当該のリスクを低減しようとする場合に(普通は必要)電源遮断方策を適切に設けなければなりません。(自動遮断器とは限らない。)
電源遮断
感電防護目的の
自動遮断
短絡・過負荷保護目的の
遮断
目的を混同しないこと。
CEマーキングは自由流通のための制度であり、様々な製品を規格書のカタに嵌めることを意図していません。盲目的に整合規格の通りに設計するものではありません。整合規格は、CEマーキング指令への適合を推定できる具体的な技術仕様・試験仕様がどの様なものか記述されているのであり、法規制ではありません。適合といえる、すなわち、リスクが許容レベルに低減されている技術仕様とはどのようなものか、メーカーは参考にし、理解して用いるものです。
整合規格は、指令への適合の推定を与える技術資料として予めその規格リストが公表されていることによって、その内容については市場監査当局が承知しているものであり、製品が適合していることについて全ていちから説明する煩雑を避けて、当該のリスクについては整合規格の要件を満たしている旨を以てスマート説明することができます。この説明は『整合規格の役割』で説明されるメーカー自身による(リスク)アセスメントとセットでなければ不十分です。
この(リスク)アセスメントの記録は、技術文書に含めるよう指令に要求があります。
電源自動遮断のみが感電防護ではない
規格書に記載の電源自動遮断の要件を達成していれば、一応は感電防護リスクは低減されますが、それで良いかどうかはよく考慮する必要があります。
『ブレーカーで切れるから大丈夫』ー大丈夫?!
そもそもリスクを認識しているからブレーカーを設けている。リスク源を排除、低減できないかをまず最初に検討しなければならない。ブレーカーが絶対的に動作するとしても、そもそもリスク源が無いに越したことはない。
自動電源遮断は、感電防護のひとつの手段であるが、他により適切な防護手段をとることがきないか検討するべきである。
個別具体的なご質問・ご相談はコンサルティングにて
感電リスクがない、あるいは他のリスク低減手段によって感電防護を確実に達成しているならば、感電防護目的の電源自動遮断は必要ありません。
安全は、『シンプルイズベスト』であり、3ステップメソッドにもとづいて、適切にリスクが低減されなければなりません。
遮断器をつけたから大丈夫というためには
感電リスク低減のための感電防護方策として、(絶縁)故障時の電源自動遮断が合理的であると設計判断し、そのための遮断器を設ける場合、いざというときにその遮断器が確実に遮断動作するように設計しなければなりません。
自動遮断のためには、通常状態と絶縁故障状態とを明確に峻別するためのパラメーターが必要です。通常これは電流です。すなわち、故障電流が通常電流に比べて明確に過大な電流が流れることによって故障状態と判定し、遮断器が作動するようにします。
遮断器の作動は、絶縁故障発生時に故障電流が流れる部分・箇所ついて、
危険電圧になる任意の2点間に、
人が接触するまでの時間内に、
自動遮断が作動すること。
この電圧と時間の要件を満たす範囲内で遮断が作動しなければ意味がありません。
この要件がどの程度のものか、規格 IEC/EN 60204-1 は基準を示しており、参考にすることができます。
注意!
規格書の記述は、そこだけを見ると誤った理解をする可能性が高く、関連する事項を慎重に読み、理解することをお勧めします。
規格 IEC/EN 60204-1では、手持ち機器やポータブル機器でなければ、5秒以内に遮断動作すればよいとみられる記述があります。(これは曲解です。)
”A disconnecting time not exceeding 5 s is considered sufficiently short for machines that are neither hand-held nor portable.”
そのひとつ前の文を受けて『5秒を超えない遮断時間は十分短いと考えられます』と言っているだけです。実際の装置が5秒以内にアクセス可能かどうかを評価(アセスメント)してください。その上でより適切な要件、技術仕様を参考にしてください。これがCEマーキングで求められるリスクアセスメントと整合規格の用い方です。
遮断デバイスを理解すること
上記で触れたような、通常電流と異常電流を明確に峻別できないような用途(例:一部の電気溶接機)では、感電防護として過電流遮断器を用いることは難しい場合があります。
過電流保護器を所定の時間内に遮断動作させるためは、遮断動作電流の数倍以上の故障電流が継続して流れる必要があります。遮断時間ー電流特性の確実に動作する領域で使用する、そのような特性の過電流保護器を選定する必要があります。
もちろん、遮断デバイスの設置条件、使用上の注意等が遵守されていなければ、その遮断器は確実に動作するとはみなされません。
また、”遮断された状態”が確実に遮断といえるものか、デバイス自身の耐電圧、難燃性、耐環境性能、機械的強度、表示、そして必要な情報がユーザーに提供されているか、等々、様々な観点から適切なデバイスでなければならず、安全規格認証されたモデルを選び、使用条件、使用上の注意を逸脱することなく使用するのが通常です。
デバイスの仕様、取扱説明書、アプリケーションノート等、隅々まで目を通すこと。
故障電流
適切な遮断機器を選択するためには、絶縁故障時にどれほどの故障電流が流れるか、明確に想定されている必要があります。
想定する絶縁故障箇所に流れる電流について、その電源から絶縁故障箇所を経由し、また電源に還っていく経路をたどります。この経路は、多くの場合、保護アースや大地を含む(あるいは含まない)ループを形成します。
このループ(青矢印または緑矢印)経路を流れる電流が、故障(ループ)電流です。
このループ上のインピーダンスが、故障ループインピーダンスです。
故障(ループ)電流は、電源電圧(対地電圧)を故障ループインピーダンスで除算することによって求められます。
故障ループインピーダンス
故障ループインピーダンス (Fault Loop Impedance) を理解するためには、この記事でこれまで述べられてきた概念を理解しておく必要があります。
自動電源遮断による感電防護において、それが適切に作動するよう、遮断デバイスを選別する、あるいは検証しようとするとき、故障電流を適切に推定する必要があります。
遮断が確実に作動することを考慮します。故障電流が想定より少ない場合は遮断動作しませんので、故障電流が最も少なくなる状況を想定し、それもで十分に遮断動作するような、可能な限り少ない故障電流で遮断動作する遮断特性をもつデバイスを選択します。
上述の観点から、
- 電源電圧(対地)は条件の範囲内で最も小さい値
- 故障ループインピーダンスは、これ以上大きな値をとることはあり得ないという値
TNシステムで過電流保護器を用いる場合はこれをさらに1.5倍します。IEC/EN 60204-1 Annex A
このような値を基に、故障電流が最も少なくなる状況での故障電流を求めます。
故障電流が想定より少ない ➡ 遮断動作せず
ソースインピーダンス
故障電流が流れる経路に沿って、各要素のインピーダンスを見積もります。
電線の抵抗値は、そのカタログ値から線径と長さを基に計算できます。その他、インピーダンスが大きい要素については考慮に含める必要があります。
個別具体的な故障ループインピーダンスの推定についてはコンサルティングにて
故障ループインピーダンスには、装置内にない要素も含まれます。すなわち、【ソースインピーダンス】(電源~装置への接続点、装置の保護アース端子~電源のアース、など)です。
従って、電源自動遮断を確実に動作させるために、以下の対応が必要になります。
- 装置側の自動遮断動作の要件から、接続可能な供給元、その遮断器、保護アース等に関する条件を提示する。
- 装置外の要件によるユーザーの明確な条件指定を基に請ける。
このことに関する具体的な例として、規格 IEC/EN 60204-1 Annex B.4があります。
このAnnex Bは、ユーザーとメーカー間の仕様決定、リスクアセスメントの前提条件、制限事項の決定に活用することをお勧めします。
ソースインピーダンス、電線の抵抗値、その他故障ループ上の要素を全て合算して故障ループインピーダンスを求めます。
故障ループインピーダンスの推定とソースインピーダンスの決定
>
まとめ
自動電源遮断による感電防護方策を採用するとして、その実際の回路が、所定の時間内に絶縁故障によって発生する危険電圧の電源遮断が作動するよう設計・検証する必要があります。
絶縁故障時に流れる故障電流に対し、遮断デバイスの遮断特性は十分に小さいものでなければなりません。最も不利な条件でも確実に遮断動作するよう設計する必要があります。
規格 IEC/EN 60204-1 には、上記について参考になる技術仕様が記載されています。しかし、規格書の記述は、そこだけを見ると誤った理解をする可能性が高く、関連する事項を慎重に読み、理解することをお勧めします。
感電防護のために、過電流保護器や漏電遮断器を用いる際の技術仕様が規格IEC/EN 60204-1 に記載されています。故障ループインピーダンスあるいは接地抵抗、いずれも、装置側だけでは決定できない要素を含んでいます。
装置側だけでは決定できない要素があるとき、遮断器が確実に遮断動作するための条件付けをする必要があります。規格 IEC/EN 60204-1 Annex B は、ソースインピーダンスを含む電源仕様決定の一助とすることができます。
メーカーのための
故障ループインピーダンスとは?
2024-01-27
各種テンプレート・フォームと技術解説資料
お気軽にお問い合わせください。
CEマーキングリーダー育成、文書作成指導、社内標準化など。
ウイザード形式で当社のサービスを案内します。
選択肢を順番に選択することにより、簡単に見積もりのお申込みが可能です。
適合宣言の範疇、製品仕様、Intended use analysis、リスクアセスメントの最初のステップです。
指令の必須要求事項と製品に内在するリスクを照査します。
評価・試験を効率よく進めるためには、適切な計画の下で予め必要な物を揃え、必要な事項を決定します。
CEマーキングでよく実施される評価・試験を迅速に、低価格で実施します。
技術文書ドラフト版(英語)を作成します。(ワードファイル)
適合宣言書ドラフト版(英語)を作成します。(ワードファイル)
Regulation (EU) 2019/1020 のAuthrised Representativeのタスクを履行します。
こんなサービスできないかーお気軽にご相談ください。
どうぞお気軽にお問合せ下さい
メールでお問い合わせ
フォームでお問い合わせ
別のタブが開きます。
ホームページ、記事に対するご感想、リクエスト
別のタブが開きます。