TOPIX ー 過電圧カテゴリ
- 電気絶縁設計に必要な概念である。
- 製品仕様として過電圧カテゴリを決定する必要がある。
- そのカテゴリで指定されている定格インパルス電圧を製品は持っていなければならない。
- 下流側での過渡過電圧の物理的な減衰という意味ではなく、確率的な意味合いがある。
この記事は、
IEC 60664-1:2007
INSULATION COORDINATION FOR EQUIPMENT WITHIN LOW-VOLTAGE SYSTEMS – Part 1: Principles, requirements and tests
を参考にしています。
この規格書は、様々な機器の規格書を作成する技術委員会に、機器の空間距離、沿面距離、固体絶縁の要件を指定する際に必要な指針を与えるためのものです。例えば、EN 60204-1:2018、EN 61010-1:2010等々、多くの製品規格がこの規格を参照し、アレンジして、各々の絶縁要求を定めています。
例えば、規格IEC 61010-1、Annex Kでは次のような記述があります。
IEC 60364-4-44 は、次のように述べている。
「インパルス耐電圧(過電圧)カテゴリは、サービスの継続性と許容可能な故障確率に関する要求される期待に関して、機器の利用可能性の異なる程度を区別するためのものである」
このことは、機器の過電圧カテゴリの適切な定格の決定は、安全性の理由だけでなく、信頼性の理由に基づいて行われる可能性があることを意味する。この規格(IEC 61010-1)では,第 5 節から第 16 節の要件は,建築設備の一部を構成しない機器に適用され, 開口部及び沿面距離の要件は,主電源電圧 300 V までの過電圧カテゴリ ll に基づいている。
Annex K IEC 61010-1
実際の絶縁設計では、低電圧配電網に接続する/しない、接続する電源電圧の最大値と過電圧カテゴリ、定格インパルス電圧、ミクロ環境の汚染度、絶縁の種別(機能絶縁、基礎絶縁、補助絶縁、強化絶縁)、各種ストレス(温度、湿度、周波数、電圧、機械的、化学的ストレス、等々)による劣化、導電体・絶縁体の形状、高度(気圧)等々について考慮し、配置や絶縁体の材質、形状を決定する必要があります。
これらを考慮し、技術仕様としてまとめられている規格は、設計者を大いに助けます。
この記事では、その基本となる概念のひとつ、過電圧カテゴリについて記述しています。
過電圧カテゴリとは (Overvoltage categories)
適切に電気絶縁設計するためには、その回路部分が最大何Vになるかを考慮しなければなりません。
その回路部分での最高電圧はもとより、その部分の絶縁がどの様に構成され、その電圧が絶縁構造物によってどのように分圧されるかも考慮に含め設計する必要があります。
AC200 [V]
↨
AC入力
絶縁
DC出力
↨
DC12 [V]
↑
???? [V]
↑
???? [V]
過電圧
絶縁によって分圧される電圧
その回路部分に到達し得る過電圧と過渡電圧を考慮に含める必要があります。
電力供給網に接続する機器は、そこで発生する過渡電圧が機器に到達することが想定されます。
機器の内部で過電圧を発生させる可能性がある場合(スイッチングなど)、機器内部の影響を受ける部分はその過電圧に対する耐性を有し、また、周辺機器の耐性を超える過渡電圧が外部に出ないようにしなければなりません。
機器に到達し得る過電圧は、確率論的な問題です。そこで、適切な絶縁の水準を定め、運用するために過電圧カテゴリが定められています。
過電圧カテゴリは、到達するかもしれない過電圧ではなく、機器の定格として定義されていることに注意してください。
多くの製品規格が規格(IEC 60664-1)に定められている過電圧カテゴリに従って、どの過電圧カテゴリを適用するか、各カテゴリにおける絶縁要求を定め、設計者を助けます。設計者はどの過電圧カテゴリに属するかを考慮して仕様決定、設計に役立てることができます。
過電圧カテゴリ(OVC: overvoltage category)
過電圧カテゴリ/接続電源
OVCⅠで
OVCⅡで
OVCⅢで
OVCⅣで
納入仕様/取扱指示書
『ご使用ください。』
『使用可能です。』
『使用しないでください。』
要求仕様
『使用します。』
『使用可能にしてください。』
『使用できませんか。』
設計者は製品の設置・使用条件を考慮し、適切な過電圧カテゴリで設計する必要があります。
ユーザーは、機器の過電圧カテゴリを守って設置、使用しなければなりません。
過電圧カテゴリの概念は、低電圧主電源から直接電力供給される機器に使用されます。
過電圧カテゴリには、設備内の下流側での過渡過電圧の物理的な減衰という意味ではなく、確率的な意味合いがあります。
注1過電圧カテゴリのこの概念は、IEC 60364-4-44 の第 443 項で使用されています。
注2この規格 (IEC 60664-1) における「過電圧カテゴリ」という用語は、IEC 60364-4-44 の条項 443 で使用される「インパルス耐性カテゴリ」と同義です。
同様の概念は、通信システムやデータ システムなど、他のシステムに接続された機器にも使用できます。
過電圧カテゴリの定義 (IEC 60664-1)
過電圧
カテゴリ
定義(意訳編集)
機器の例
IV
設備の大元で使用される。
【多くの場合、ビルディング、建物の接続点を指している。】
電力メーター、一次過電流保護機器など
III
固定設備に設置され、機器の信頼性と可用性が特別な要件の対象となる場合に使用される機器
【多くの場合、ビルディング、建物内の配電系統を指している。建物に組み込まれ一体化しているような固定設備も含まれる。】
固定設備内のスイッチ、固定設備に恒久的に接続される産業用機器
II
固定設備から供給されるエネルギーを消費する機器
【多くの場合、ビルディング、建物内のコンセントに接続される機器を指している。】
このような機器が信頼性と可用性に関して特別な要件に従う場合、過電圧カテゴリ III が適用される。
【製品規格に特別な要件についての記述が無いとしても、機器についてカテゴリⅡの適用で十分かどうかメーカーが考慮(リスクアセスメント)し、適切なカテゴリ選択に基づいて設計する必要がある。】
電化製品、携帯工具、その他の家庭用負荷や同様の負荷
I
過渡過電圧を適切な低レベルに制限するための対策が講じられた回路に接続するための機器
【対策(サージ保護器や分巻トランス)の有無のみでカテゴリⅠを定義していない。】
これらの対策により、発生する可能性のある一時的な過電圧が十分に制限され、そのピーク値が表 F.1 の関連する定格インパルス電圧を超えないようにする必要がある。
【対策(例:項4.3.3.6)によって、表F.1を満たしている必要がある。】
(注1)
一時的な過電圧を考慮して回路が設計されていない限り、過電圧カテゴリ Ⅰ の機器を主電源に直接接続することはできません。
注1現在利用可能なサージ保護デバイス (SPD) は、一時的な過電圧に関連するエネルギーに適切に対処できません。
「過渡過電圧」と「一時的な過電圧」は別のものです。
過渡過電圧:
数ミリ秒以下の短時間の過電圧、雷やスイッチングによるものなど。
一次的な過電圧:
L-N間電圧+1200Vが5秒以内、あるいは、L-N間電圧+250Vが5秒を超える。
定格インパルス電圧
定格インパルス電圧によらず、過電圧については機器内外を問わず想定しなければなりません。
低電圧配電網に接続される機器について、4つの過電圧カテゴリⅠⅡⅢⅣそれぞれに、電源の公称電圧ごとに、定格インパルス電圧が定められています。
※
海抜2000mまで
※
周波数30kHz、1000Vまでの定格交流電圧
※
1500Vまでの定格直流電圧
注意!この過電圧カテゴリの概念を採用している製品規格であっても、製品規格各々の用途や前提条件が考慮され、多少内容が異なる可能性があります。
電源公称電圧(1)
(IEC60038)(3)
三相
V
単相
V
交流または直流交渉電圧から導出されるL-N間電圧
(~以下)
V
定格インパルス電圧(2)
過電圧カテゴリ(4)
Ⅰ
V
Ⅱ
V
Ⅲ
V
Ⅳ
V
50
330
500
800
1500
100
500
800
1500
2500
120-240
150(5)
800
1500
2500
4000
230/400 277/480
300
1500
2500
4000
6000
400/690
600
2500
4000
6000
8000
1000
1000
4000
6000
8000
12000
1)既存のさまざまな低電圧主電源とその公称電圧への適用については、Annex B 参照。
2)これらの定格インパルス電圧を持つ機器は、IEC 60364-4-44 に準拠した設備で使用できます。
3) / マークは 4 線式三相配電方式を示します。 低い値はL-N間電圧、より高い値はL-L電圧です。 値が 1 つだけ示されている場合、
3 線式、三相システムであり、L-Lの値を指定します。
4)過電圧カテゴリの説明については、4.3.3.2.2 を参照してください。
5)日本の単相システムの公称電圧は100 Vまたは100 ~ 200 Vです。電圧の定格インパルス電圧は、150 VのL-N電圧に適用される列から決定されます。(Annex B参照)。
多くの製品規格が、この規格(IEC 60664-1)を参照し、過電圧カテゴリに基づいて、その製品の用途、前提条件など加味したうえ、個別に空間距離、沿面距離、試験電圧等を定めています。
2024-03-30
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